Thoughts and Healing

頭の中のこと 日々想うこと

宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」を読む 成瀬のようには生きられない自分を知っていて、だけど本当はそんな生き方に憧れて強く成瀬(らしさ)を求めている自分が同時に存在しているように思う

🐾個人的な読み&解釈です🐾

孤立しようが無視されようが、他人の目を気にすることなくマイペースに生きている成瀬あかりのひょうひょうとしたキャラクターが、今を生きることに息苦しさを感じている人々たちにとって魅力的に映ったからこそ、この作品はここまで愛され人気となったんじゃないかと思う。それだけ人々は人目を気にし、空気を読み、周囲から浮くことや笑われそうなことをしないように気をつけて、嫌われたり枠から外れたりしないように細心の注意を払って生きているのだろう。成瀬の幼なじみの島崎みゆきや中高一緒の大貫かえでなど、読者が共感し感情移入するのは成瀬の周りの人たちではないだろうか。その上で成瀬に憧れる。読者が共感できるような成瀬の周りの普通の人たちに語らせたのが成功していると思う。くわえて、舞台が滋賀県でありローカルな地名や番組名や店名や湖や観光船などが出てくるところが、この小説の魅力を倍増させている。

確かに成瀬は魅力的だ。自分軸で生きている。こんな人は現実にはきっといない。もしいてもこんなに愛されはしないだろう。みんな周囲を気にして普通にしようと頑張ってる自分を正当化したいし守りたくて成瀬のような生き方をやんわり否定しようとするんじゃないかな。いじめたりしなくても、変わってるよねと言って距離を置く感じで。でもだからこそ、成瀬のようには生きられない自分やもし周囲に成瀬のような人がいたら距離を取ってしまうかもしれない自分を知っていて、だけど本当はそんな生き方に憧れて強く成瀬(らしさ)を求めている自分が同時に存在しているように思う。そんな矛盾した気持ちをこの小説は昇華させてくれるのかもしれない。自分の代わりに島崎が、大貫が、成瀬に対する矛盾した気持ちを代弁してくれる。語り手たちは自分は凡人だと自覚していたり、人と比べたり、周囲を気にしたり、自分の立ち位置を考えたりという読者が共感できるような人物たちで、そんな彼らにとって成瀬は時にまぶしく、時にうとましく、嫉妬と羨望が入り交じった気持ちでいるのを、読者も同じように一緒になって成瀬を見ているような気になるのではないだろうか。

そんな成瀬が最終章で初めて自分で語るわけだけれど、自分軸でひょうひょうと生きてるように見えた成瀬が、他の人をどうでもいいと思っているわけではなくとても気を使っているし、人に対して揺れ動く感情もあって、むしろそんな自分の気持ちに戸惑いながらまっすぐ向き合う姿に、成瀬が不器用な人間味のある人物であることがわかってくる。読者はここで、今まで面白いけどちょっと理解できない遠い存在だった成瀬に対して、親しみを持ち好感がさらに極まることになるだろう。

次はこれも読む~

そして成瀬シリーズとは違う最新作も気になります。

 

小説を読んでから、頭を整理してまとめるのにとても時間がかかってしまいます😓

他にも感想まとめたい読了本がたくさん。読みたい本もたくさん。時間が足りない~